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アンジェリークが初外遊をする日がやってきた。 外遊といっても、飛行機で2時間程の所に行くだけだ。 親善目的で公務も含むが、アンジェリークはそれでも大層楽しみにしていた。 従姉のロザリアに逢えるのはもちろんだが、やはり一番の原因は、随行員で警備責任者のアリオスの存在だ。 飛行機の座席も彼が後ろで、とてもときめいてしまう。 アリオスさんに護られるって、嬉しいかな…。 …でも、こんなこと考えるのは不謹慎かな・・・。 そう思いつつ、アンジェリークはアリオスを目で追わずにはいられなかった。 飛行機がフェリシア国に到着すると、熱烈な歓迎を受け、アンジェリークは驚く。 同時に眩しいほどの人々の思いに感動してしまう。 自国の歓迎とはまた違って、アンジェリークは感激を隠しきれなかった。 一生懸命、親善に努めなくっちゃいけないわ。 感動を素直に笑顔で表して、アンジェリークは人々に返す。 アルカディア国でも常に絶大な人気を誇るアンジェリーク王女だが、エレミアでもそれがいかんなく発揮されたようだった。 宿舎である迎賓館に到着するなり、警備担当者のアリオスが無表情で入ってくる。 その顔を見るだけで、妙に落ち着かなくなってしまう。 胸がドキドキして、妙な言葉を発しないか、そんなことが頭をぐるぐると巡った。 やだ…。 私なんか、盛のついた雌猫みたい…。 「殿下、簡単に部屋のチェックをさせて頂きます」 「どうぞ・・・」 一分の隙すらアリオスには見られず、てきぱきと室内をチェックしている。 ここが公的機関の宿舎であるにもかかわらずである。 厳しい眼差しでチェックをする彼は、やはり素敵だ。 「アリオスさん、どうしてそんなに綿密にチェックをされるのですか?」 「念のため。フェリシア政府も了解済みです」 簡単なチェックが終わると、アリオスはアンジェリークをちらりと見た。 その眼差しですら、魅了されずにはいられない。 「最近は、パパラッチが増えていますから、盗撮、盗聴に注意が必要です。ここは安心して下さい。何もありません。何かあれば、隣に俺はいますから」 「有り難う」 アリオスは、全く無駄なことは一切せずに、部屋に戻ろうとする。 アンジェリークは、もう少しそばにいてほしくて、アリオスを切なげに見つめた。 ハートのペンダントが胸元で揺れる。 その瞬間、流れるようにアリオスは振り返った。 不思議な瞳のアリオスと目があって、アンジェリークはドキリとする。 彼の視線は胸元のペンダントに注がれた。 「アンジェリーク、王女、チェーンが新しくなったんですね」 「はい! 覚えておいて下さったんですか!」 アンジェリークの表情は明るくなり、嬉しくてアリオスに近付こうとする。 「あっ!」 その瞬間、ペンダントのチェーンがはじめてあったときの再現のように、再び切れてしまった。 あの時と同じように、アリオスの足下にペンダントが転がる。 彼は拾いあげるとそれを手の中に握り締めた。 「これは俺が直しておきます」 「有り難う・・・」 軽く頭を下げると、アリオスは部屋を辞する。 これもまた偶然? あんなにしっかりしたシルバーなのに・・・。 やっぱり、伝説通りだったら、凄く嬉しいのにな・・・。 アリオスが行ってしまったドアを見つめながら、アンジェリークは頬を赤らめる。 恋はもう始まっていた-------- 翌日、アンジェリークは美術館の表敬訪問をした。 若々しい王女を一目見ようと、多くの人々が駆け付けてきている。 アンジェリークは歓声に精一杯応えるために、楽しそうに、心から手を振っている。 フェリシアの美術館は、アンジェリークが何度も尋ねたことがある、大好きな場所であった。 だがアリオスは、厳しい視線を周りに向けて警備をしている。 サングラス姿のいかにもな格好をしているアリオスを横目で見つめてしまう。 うっとりと瞳を輝かせている。アリオスと一瞬目が合ってしまい、アンジェリークは慌てて逸らした。 公式な場所で、気になる人をじっと見てしまうのは、王女としてやはり良くない。 反省しつつ、アンジェリークは芸術観賞に熱中することにした。 「うわあ…!」 アンジェリークが感嘆の息を漏らし、目を奪われたのは、”翼”というタイトルの彫刻。 素敵・・・。 片翼だけの男女の天使が寄り添い合っている、とても美しい彫刻だ。 まるで魂を奪われたように、アンジェリークはしばらく魅入っていた。 美術品に魅入られている王女を、アリオスは後ろから見守っている。 その瞳が僅かに優しくなっていた---- ゆったりとした心のゆとりのある時間を過ごした後、アンジェリークは美術館から出ようとした、正にその時。 「・・・!!!」 銀の髪が目の前を掠めたかと思うと、躰が伏せられる。 一瞬何が起こったか判らなかった。 少し遅れて聞こえた銃声と、その後のざわつきに、ようやく真相がぼんやりと見える。 目の前に広がるのは、逞しい胸だけ。 「大丈夫ですか」 耳元に付いたのは、冷静な声だった。 包みこんでくれいてた腕が解かれると、急に恐怖感が襲ってくる。 アンジェリークは、連行される若者を目の当たりにして、震えを感じた。 アリオスの頼りになる腕が下りてくる。 その手を握り締めようとした瞬間、あたりが真っ黒になった------ アリオスは気絶したアンジェリーク王女を抱き上げると、防弾設備が施されたリムジンに運んでいく。 その瞳は厳しく、陰りを見せていた----- 次にアンジェリークが光を感じたのは、迎賓館のベッドの中だった。 「まあ、アンジェリーク王女様、お気付きになられましたか!」 「パリロー夫人・・・」 目の前には心配そうにパリロー夫人がベッドを覗きこんでいる。 「・・・私、気絶してしまったのね・・・」 「ええ。ですがもう安心ですわ! アリオス中佐がきちんと警備をして下さっていますから」 アリオス------ その名前を聞くとどきりとする。 「私を運んで下さったのも・・・」 「中佐ですよ。今夜からは、控えの間で寝て下さるそうですから、安心ですよ?」 これにはアンジェリークは息を呑んだ。 控えの間と言えば、アンジェリークが使う寝室の一角にある部屋である。 薄い壁とドアで仕切られただけの空間で、あまりにも近すぎる。 アンジェリークはそれを聞くなり、恥ずかしくて真っ赤になって俯いた。 「・・・あの、それでアリオス中佐は・・・」 「近くにおいでですよ。呼んで参りますね」 夫人は、ドアの外にすぐに控えているアリオスを呼びに行ってくれる。アリオスが表情を変えずに部屋の中に入ってくる。 銀の髪が僅かに乱れて、アンジェリークは見惚れずにはいられなかった--------- To Be CONTINUED… |
| コメント 「王家の恋」。今回はアンジェリークがお姫様です。 甘く切なく美しい恋物語をお届けする予定ですので、お楽しみ下さいませ。 今回のアリオスもステキに格好良い予定です。 正統派のお話です〜。 ご期待下さい(笑) アリオスさんのかっこよさをかきつつ、 ロマンティックにしたいな〜 |