とらわれの姫君

14


 どんなドレスを見立てて貰えるのかと思うと、凄く嬉しい。
 放課後になるまで、私は楽しみでしょうがなく、1時間が非常にスローペースに感じていた。
 授業がはねると、素早く教室を飛び出していく。もういてもたってもいられない。
 私はばたばたとアリオスお兄ちゃんが待つ、学校の裏手に向かう。
 アリオスお兄ちゃんは非常に忙しいひとだけれど、今日は時間を空けてくれている。
 いつものことだが、私には時間の融通を利かせてくれるアリオスお兄ちゃんが、とても大好きだった。
「アリオスお兄ちゃん!」
 私が手を振ると、アリオスお兄ちゃんは僅かに手を上げて返事をしてくれる。私にはそれが嬉しくて楽しい。
「早く乗れ」
「うん!」
 まるでデートをするような胸のときめきを感じながら、私はアリオスお兄ちゃんの車に乗り込む。
 心地が良くて、踊り出してしまいたくなるぐらいだった。
「ああいうパーティーはドレスコードがあるからな。おまえの一張羅のワンピースだとダメだからな」
「うん。でも、ドレスなんて初めてだから、ちょっと嬉しい!」
「ちょっとか?」
 アリオスお兄ちゃんは苦笑しながら聞いてくる。
「いっぱいっ!!」
 私が大きな声で言うと、アリオスお兄ちゃんは笑ってくれた。
「だったら、いっぱいの嬉しさに応えてやらねえとな」
「有り難う!」
 アリオスお兄ちゃんにドレスを見立てて貰えるなんて凄く楽しみ。まるで一流芸能人がお見立てゲストで来るぐらい嬉しい。
「アリオスお兄ちゃんに見立てて貰うの嬉しいなあ。着物の即売会とかでよくあるじゃない? ”本日のお見立てゲスト”って。なんかそんな感じがするよね!」
「俺はオスカーじゃねえ」
 アリオスお兄ちゃんの少しばかりムスッとした声に、私は思わず笑ってしまった。
 確かにオスカーさんは、良く着物の即売会で、お見立てゲストをしている。私もそれを思い出して、笑ってしまった。
 流し目が素敵なオスカーさんは、立派な”マダムキラー”だ。
「どこに連れて行ってくれるの?」
「おまえの好きな、”セイラン”だ」
 大好きなブランドの名前が聞けて、嬉しさが倍増する。私は車に乗っていなかったら、きっと無条件で踊り始めていたかと思う。
「セイランなんて、凄く嬉しい!」
「プレゼントしてやるから、大切に着ろよ」
「うん!」
 CD売り上げナンバーワンを誇るアリオスお兄ちゃんには、これぐらいどうということはないだろうけど、セイランのブランドはかなり高価だ。私は少し遠慮を感じて、アリオスお兄ちゃんを見た。
「心配すんな。いつものお礼だから気にすることもねえからな」
「有り難う…」
 しみじみとした私の視線に、アリオスお兄ちゃんは優しい手を頭に置いて応えてくれる。
 温かい優しい手に、私は魅了されていた。
「おまえがパーティーで主役以上に可愛くしてやるからな」
「それはないよ〜」
「いいや、有り得るさ」
 アリオスお兄ちゃんがあんまり真剣に言うものだから、私は真っ赤になってしまう。
 そんな私の姿にアリオスお兄ちゃんは僅かに笑ったようだった。
 とにかく。どんなドレスをふたりで選ぶのか、楽しみと期待が大きくなっていく。
 車は、セイランの直営ブティックのあるビルの駐車場に停められた。
 高級ブティックが入っている、セレブリティも訪れるビルの雰囲気に、私は緊張せずにはいられない。
 車を停めて外に出ると、アリオスお兄ちゃんが手を引いてブティックの中に連れていってくれた。
「なんか制服姿で恥ずかしい…」
「気にするな」
 余りにもきっぱりとアリオスお兄ちゃんが言い切ったので、少しばかり安心する。
 中に入るなり、洗練されたエスプリに私は圧倒ばかりされた。
 綺麗なドレスは勿論のこと、グリーンをモチーフにした素晴らしい連作などもあり、目移りしてしまう。
 キョロキョロと視線を泳がせながら、私は挙動が不審な人物のように、辺りを見ている。
 けれどアリオスお兄ちゃんは、そんなことはお構いなしとばかりに、私をドレスコーナーに案内してくれた。
「凄く綺麗なドレスばかり…」
「これだけあると目移りするがな。まあ、おまえは白とかピンクが似合うと思うんだがな」
 アリオスお兄ちゃんはそう言うと、私に合いそうなものを何着かピックアップしてくれた。
「これこそ迷っちゃうわ! どれも素敵!」
 私はどれも素晴らしいデザインだと感心しながら、ひとつずつ見る。
「薄いピンクのドレスに、花をあしらったカチューシャとか似合うと思うけれどな」
 アリオスお兄ちゃんが言うと、直ぐに店の人が、可愛いらしいカチューシャを持ってきてくれる。白い花があしらわれたそれは、とても品が良い美しさがある。
 私は、それをじっくりと見ながら、生唾を呑んだ。驚くような価格だったからだ。試着ですらも躊躇わずにはいられないほどのものだったのだ。
「その綺麗なピンク色のドレスを着て、カチューシャをしてみてくれ」
「…うん」
 私はアリオスお兄ちゃんの見立て通りの物を手に取ると、更衣室に入る。
 試着だからドキドキする。粗相をしないように、綺麗に着られるようにと、最大限の緊張を感じながら着替えた。
「こんな感じかな…」
 カチューシャを頭に着けて試着室を出ると、アリオスお兄ちゃんの厳しい視線が待っている。
「うーん、悪くはねえが、更に白に近いこれを着てくれ。背中が白いレース仕立てで、天使の羽根みたいになっているやつだ」
 アリオスお兄ちゃんが指示をすると、直ぐに店員さんが新しいドレスを私に渡してくれる。
「着てくる」
「ああ」
ア リオスお兄ちゃんが選んでくれたドレスを着るのには、凄く緊張する。
ド キドキして、本当に着こなせるのだろうか。似合うのだろうかと考えると、切なかった。
ド レスをまた違うものに着替えると、何だかアリオスお兄ちゃんの着せ替え人形になった気分で楽しかった。
「これは?」
 アリオスお兄ちゃんがイチ押しの背中に羽根のベールが付いた物を着ると、お兄ちゃんは上から下までじっくりと見てくる。
 真摯さの宿る艶やかな瞳に、私はくらくらする。
「良いんじゃねえの。似合っていると思うぜ。おまえは着心地とかはどうなんだ?」
「良い感じかな…」
 アリオスお兄ちゃんに大丈夫だと言われたことに、私は心底ほっとする。
 私の意見云々よりも、アリオスお兄ちゃんが気に入ってくれることが、私には重要だった。
「…だったら、パーティーはこれを着るか」
「うん!」
「後は靴だな…」
 アリオスお兄ちゃんは、私の足元を見て、直ぐに店員を呼ぶ。
「コイツに合う、靴を用意してくれ。高いヒールはダメだぜ。転んでしまうからな」
「かしこまりました」
 ハイヒールは、私には背伸びをしていることだと思うと、少し切なかった。
 アリオスお兄ちゃんにとっては私はまだまだ子供だ。きっと、ハイヒールなんかが似合わない子供…。
「これなんかいかがですか?」
 店員さんは私の前にローヒールを置いてくれたけれども、視線はアリオスお兄ちゃんにくぎづけだ。
 仕方がないとは思うけれども、私は複雑な気分になる。
 アリオスお兄ちゃんはかなりの魅力の持ち主だから、女性を魅了するのは当然だけれども、それでも嫌なのには違いない。
「履いてみろ? 足がむくんでるとかはねえだろう?」
「うん大丈夫」
 私はそっと白くて可愛いヒールに足を入れる。すんなりと馴染んで、私はシンデレラにでもなった気分になる。
「これも悪くねえんじゃねえの」
「うん、アリオスお兄ちゃん良い感じよ」
「だな。おい、この二つを頼む」
 アリオスお兄ちゃんはこれしかないとばかりの声で言うと、直ぐに店員さんは準備にかかる。
「それじゃあ、着替えてくるね」
「ああ」
 早速決めたドレスを包んで貰う為に、私は脱いで制服に着替える。
 脱ぐときも、慎重に慎重に服を脱いで、畳んだ。
「これお願いします」
 私は店員さんにきちんと礼儀正しく接することにする。
「解りました」
 丁寧に扱ったドレスを店員さんに渡した。
 このドレスを着て、アンジェリークさんの素晴らしいパーティーに行く。。
 想像してみるだけで幸せな気分に浸ることが出来た。
 これで本当に、世界一の幸せものになれるような気分にすらなる。
 私はほわほわとして幸せでしょうがなかった。
コメント

アリコレ兄妹ものです。
まだ佳境までには時間がかかりそうですが、宜しくお願いします。





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