とらわれの姫君

21


 心地が良い疲労が躰の奥底から流れ落ちてくる。
 私はそれに導かれるように、ゆっくりと目を開けた。
「…アリオスお兄ちゃん…」
 アリオスお兄ちゃんと視線が絡み合う。あんなことをした後だったせいか、目を合わすだけだけでも恥ずかしい。
「おはよう」
「…おはよう」
 恥ずかしくて半分上掛けで顔を隠しながら挨拶をすると、アリオスお兄ちゃんは笑って私の唇にキスをした。
 朝だから軽くそしてカフェオレのように甘めに。
 少しひげがチクチクして、痛かった。
 アリオスお兄ちゃんは、はにかむ私を可笑しそうに笑うと、ベッドから降りた。
 何も身に着けていないアリオスお兄ちゃんの躰は、まるでアポロンの彫刻のように美しい。思わず見とれてしまう私は、ちょっといやらしいのかな?
 大好き…。
 そんな言葉が自然と心から溢れてきた。
 アリオスお兄ちゃんは裸のまま、部屋を出ていってしまう。
「アリオスお兄ちゃん、それはまずいんじゃ…」
「シャワーを浴びるの。おまえも来いよ。待ってる」
 私も、少し重い下半身を引きずりながら、下着とパジャマを着込んだ。
 …何だかやっぱり恥ずかしい気分になる。
 えっち…という軽々しい言葉でなんて片付けたくはない。ちゃんと愛し合ったんだ…。
 躰の奥は何だか鈍い痛みが走ったけれども、私は、とても幸福だった。
 身支度を終えると、下に降りていく。
 シャワーの音が聞こえる。ちっともさわやかじゃない。どこか官能的なものを感じてしまい、私はドキドキした。
「おい!」
 バスルームの向こう側から、アリオスお兄ちゃんの声が聞こえる。私はかなりドキリとした。
「何?」
 私が応えると、アリオスお兄ちゃんはバスルームから顔を出した。
「汗、流してやろうか?」
 イキナリのドッキリ発言に、私は真っ赤になる。それはかなり恥ずかしくて、私にはまだまだ出来そうにない。
 それに…、これ以上求められたら、かなり痛くなる。今も下腹部はかなり痛い。
「ひ、ひとりで…」
 思わず声を上擦らせてしまう。私が真っ赤になっているのを、アリオスお兄ちゃんは楽しんでいるようだった。
「…また、今度…」
「お袋やばあちゃんが居るのに? チャンスは今日だけだぜ? アンジェ」
「…でも、…痛いもん」
 私はそれこそ消えそうになる声で言う。恥ずかしさが、天下一品に盛り上がる。
「…そうか。だったらまた今度な。俺は出てやるから、ほら、さっさと浴びろ」
「…うん」
 アリオスお兄ちゃんはバスルームを空けてくれたけれど、程よく鍛えられたアリオスお兄ちゃんの躰に雫が伝って、私だってかなり変な気分になった。
 アリオスお兄ちゃんの鍛えられた胸に、そのまま手を這わせてしまいたくなる。それを何とか押し止めて、私はバスルームに逃亡するように入った。
 汗をざっとシャワーで流し、サッパリとする。だけどぴりぴりする中心部分は変な感じだった。
 汗を流してバスルームの中で、素早く下着を身につけて身支度をする。
 裸のままアリオスお兄ちゃんの前に出るのは、相当恥ずかしかった。
 洗面室に出ると、アリオスお兄ちゃんはちょうど歯を磨いていた。私もその横に立って歯を磨く。
「折角のチャンスだったのによ」
「何が?」
「おまえと風呂に入る」
 アリオスお兄ちゃんは悪びれる様子など一切なく、いけしゃあしゃあと凄いことを言ってのける。そこがアリオスお兄ちゃんの凄いところ何だろうけれど。
「ダメだもん」
「じゃあ、今度は一緒にホテルだな」
 アリオスお兄ちゃんは本当に反省の色が見られない。…だけど、ちょっとだけなら、いいかなあって思う私も、相当ダメダメだと思う。
「今度はもっとロマンティックに迫ってやるよ」
「うん」
 言うなり、アリオスお兄ちゃんはハミガキ粉の泡だらけの口のままで、私に触れるようなキスをしてきた。
「きゃあっ!」
 唇を離された後も、私は泡でベタベタになっていた。全く、もう! 怒っても、やっぱり好きなんだけれど。
「…キタナイ」
「誰だよ、この唇で、あんなことやこんなことをして貰って、喜んでいたのは?」
 意地悪とからかいの含んだアリオスお兄ちゃんの言葉に、私はわざと拗ねた。
 全く、そんな恥ずかしい台詞を、よく素面で言えるものだわ。
「ハミガキ粉まみれは嫌だもん」
 私は拗ねるように言うと、アリオスお兄ちゃんにそっぽを向いた。
 アリオスお兄ちゃんは一足早く歯を磨き終えて、さっぱりとする。
「髭は剃らないの?」
「仕事午後からだし、表に出るやつじゃねえから」
「私は嫌だ」
 私の言葉を意に解さないように、アリオスお兄ちゃんは眉根を寄せた。
「何でだよ」
「キスする時、チクチクして痛いんだもん。痛いのは嫌」
「しょうがねえな。お姫様は」
 アリオスお兄ちゃんは呆れながらも、横で髭を剃り始めてくれる。
 私はそれを嬉しく想いながら、うがいをして、顔を洗った。
「これで合格か?」
 アリオスお兄ちゃんは私を抱き寄せてくると、優しくキスをしてきてくれた。
 甘いとろけそうなキスは、私にとっては最高級のものだ。
 唇を離してもらって、私はくすくすと笑ってしまう。
「合格よ」
「そりゃどうも」
 私はくすくすと笑いながら、アリオスお兄ちゃんにしっかりと抱き着いた。
 やっぱり、アリオスお兄ちゃんと抱き合うのは気持ち良いと想いながら。
「アンジェ、こうやってずっと色々出来たらいいな」
「うん。中々出来ないからね」
 私たちは名残惜しいかのように、何度も抱き合ってキスをする。
 大好き。
 本当に大好きよ。
 私は、アリオスお兄ちゃんにからみ合いながら、キッチンに向かった。

 朝食は、いつものように和食を作ったが、少し照れ臭い。家族の分だけを作るのは平気なのに、何故だかアリオスお兄ちゃんと二人だけの分は、妙に構えてしまって恥ずかしかった。
 いつものように出し巻き、野菜の炒めた物、具が沢山の味噌汁に、漬物と納豆、もずく酢を加えた我が家の定番メニュー。
 バランスが取れているせいか、私もアリオスお兄ちゃんも病気知らずだ。体調もすこぶる良い。
 アリオスお兄ちゃんと顔を合わせて食事を取る。
 やっぱり恥ずかしい。
 あんなことをした後に一緒にご飯を食べるのは、照れ以外に何もない。
 いつも夢見ていた。
 いつかアリオスお兄ちゃんとこんなことになったら、ふたりでモーニングコーヒーを飲んで、甘いキスを交わし合いたい。って。
 実際にはそんなロマンティックな訳はなく、ふたりで定番の朝食をつついている。
 ベッドでいちゃついたり、綺麗な朝陽をふたりで眺めたりしたい…。
 だけど現実は、半分ロマンティックで半分痛かった。
 初めては痛いって聞いていたけれども、まさかあれほどだとは思わなかった。
「…やっぱりうちの飯は美味いな」
「ホント?」
「定番過ぎるし、スマートだとは言い難いが、バランスはとても取れているだろうが。躰にも良いし、やっぱりこの味は俺にとっては良いもの何だって思うぜ」
 アリオスお兄ちゃんは美味しそうに食べてくれて、私の朝食を褒めてくれる。それは嬉しいけれども、やっぱりもう少し夢に近い朝だったらいいのに。
「…私、アリオスお兄ちゃんともっとロマンティックしたいよ」
 私は拗ねるように甘く言う。家族と同居している以上は、中々難しいことだけれども。
「そうだな…。いちゃいちゃしてえな、おまえと」
 アリオスお兄ちゃんはそっと言うと、私にキスをしてくれる。宥めるようにキスをされると、私のご機嫌も直る。
 だけど、唇を離されると。
「アリオスお兄ちゃん! 納豆食べたでしょう!」
 私の口の周りが納豆の糸でベタベタになる。アリオスお兄ちゃんはしてやったりな顔をしたから、私は余計に悔しかった。
「そのうち、おまえとふたりで住んで、いちゃつくことが出来るようになるさ」
 ふたりだけで一緒に住む。
 そう考えるだけで、私の胸はドキドキする。
「約束よ」
「ああ。約束する」
 アリオスお兄ちゃんは甘く言うと、納豆の余韻のある唇で、私にキスをくれた。
コメント

アリオスさん。
 納豆の口でアンジェにキスするのは止めましょう(笑)



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