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夏休み最後ということで、私はアリオスお兄ちゃんと過ごすことにした。 ルヴァおばあちゃんは未だ入院中で、お母さんも付きっきり。 レオナードお兄ちゃんも仕事と色々やごとなきことで、研究者のエルンストお兄ちゃんも研究が佳境に入っていて不在。 だったらと、アリオスお兄ちゃんと私は一緒に過ごすことを決めた。 ずっと一緒に過ごす為に、佳境に入っているプロモーションビデオ撮影も見学させてもらうことにする。 私は、アリオスお兄ちゃんが素敵な姿を見られればそれで良かった。 「やっぱりプロモーションには出ないの?」 メイク衣装担当のオリヴィエさんがそれはもう残念そうに言ってくれたけれど、私はそんなことはアリオスお兄ちゃんが嫌がるからしたくはなかった。 「すみません。出ないです。私はあんまりそういうのは…。アリオスお兄ちゃんもかなり嫌がっているし」 「それはさ、あんたが凄く綺麗になっちゃってそれを曝すのが嫌なだけだよ」 オリヴィエさんは明るく言ってウィンクをしてくれたけれど、私は本当にそうなのかなと思う。 「あなたをメイクしたいんだよねぇ。肌も凄く綺麗だし、メイクするかいもあるからね」 オリヴィエさんの言葉は凄く嬉しいし、アリオスお兄ちゃんの為に、綺麗になりたいとも思う。 私が迷っていると、オリヴィエさんに手を取られてしまった。 「あ!」 「プロモーション出なくても、ちょっとだけ…、ね?」 「あ…」 出ないしちょっとぐらいは良いかな? そんな軽い気持ちで、私はメイクして貰うことにした。 アリオスお兄ちゃんの仕事が終われば、今日一日一緒に過ごすのだ。やはり綺麗にしていたい。 そんな恋心から、私はメイクをしてもらうことにした。 アリオスお兄ちゃんの撮影はかなり進行しているようだった。 エンジュもとても可愛い。 最近は、レオナードお兄ちゃんと恋に落ちているせいか、とても可愛くなっていると思う。 私は撮影を見るのも好きだが、カッコイイアリオスお兄ちゃんとエンジュが絡むシーンはまだ正視出来ない。 バーチャルな恋人同士に見えてしまうのは、やはり私がアリオスお兄ちゃんに恋をし過ぎているからかな。 私は、オリヴィエさんにメイク室に連れていって貰い、綺麗にメイクをして貰うことにする。 「アリオスも驚くぐらいに変身させてあげるからね〜! エンジュもかなり綺麗に変身したんだよ。エンジュもカメラマンのあんたの兄さんがメロメロで、彼女ばっかり撮るからアリオスが笑ってたよ。で、揚げ句の果てに、休憩中はエンジュのルージュを取ってしまうし〜!」 全くレオナードお兄ちゃんらしい。エンジュのことが見境なく好きなのだもん、仕方がないか。 「アリオスもそうなるかもね〜」 オリヴィエさんは愛のキューピッドよろしく楽しそうだが、世間的には”兄妹”な私たちを、どう感じているんだろうか。 そう想うだけで、私の気持ちは暗くなってしまった。 「どうしたの? 大丈夫だよ。私はあなたたちがどのような状況だってことは解っているつもりだよ。何も疚しいところは、あんたたちにはないんだから、堂々としておけばいいんだよ。本当に」 やはりオリヴィエさんは鋭く、私とアリオスお兄ちゃんのことぐらいは、ちゃんと見抜いている。流石は業界一の出来たひとだ。 「アンジェちゃん、アリオスと今日はデート何でしょう? だから、ちゃんと綺麗にしようね」 「有難う、オリヴィエさん」 私は、オリヴィエさんの優しい心根に感謝をしながら、メイクをしてもらうことにする。 アリオスお兄ちゃんは私が綺麗に変身したことを、褒めてくれるかな? ずっと一緒にいて、きちんとした称賛を貰ったことのない私は、ほんの少しばかりだが期待していた。 オリヴィエさんのメイクは本当にマジックだった。 吸い付くように指を肌に這わせ、私をビスクドールのような肌に仕上げてくれる。勿論、私にとっては嬉し過ぎることには違いなかった。 「髪はね少し巻こうか。ストレートのあなたも可愛いけれど、やっぱりアリオスにはサプライズ☆してもらいたいじゃん? 今夜のアリオスは野獣になっちゃうぐらい、綺麗にしてあげる!」 「…有り難うございます」 オリヴィエさんは本当に有言実行なメイクさんだった。宣言通りに、アリオスお兄ちゃんが野獣になってくれるかと、私が期待するぐらいに、綺麗に仕上げてくれた。 「おしまいっ! きっとアリオスは休憩に入るぐらいだと想うよ。見せに行っておいで。あの男も、アンジェちゃんの可愛い魅力に気がつくでしょう」 「はいっ!」 オリヴィエさんのメイク魔法で、私はほんの少しだけ自信を貰って、アリオスお兄ちゃんのいるスタジオに駆け出す。 すると、スタジオの前で、アリオスお兄ちゃんが誰かと話しているのが見え、それが誰かはすぐに解った。 女優アンジェリークさん。アリオスお兄ちゃんの産みの母だ。 私がこっそりと見ていると、私は誰かに肩を叩かれて驚いてしまった。 「あ…!」 びくりとしたものの、アリオスお兄ちゃんにばれないように声を押し殺すことにする。手の主はレオナードお兄ちゃんとエンジュだった。 「もうっ! びっくりするなあふたりとも!」 「アニキがどうしたんだよ?」 「うん、アンジェリークさんと」 アリオスお兄ちゃんとアンジェリークさんの真実の関係を識らないレオナードお兄ちゃんは、何やら興味深そうにしている。 エンジュも同様だ。 「アリオスさんって、インタビューとかでも、アンジェリークさんのファンだって言っていたから」 流石はエンジュ。生粋のアリオスファンだ。 「俺様は、妹のアンジェリークのファンだと思っていたけどな。アニキはおまえを溺愛してたからな。昔から」 「そうかも! アリオスさんは、私がアンジェの友達だからこそ、良くしてくれたもの」 私の後ろにいるカップルは本当に言いたいことを言っている。 お似合いな雰囲気がびしばしと出ていて、私はとても嬉しかったけれど。 「ちょっと興味あるよな。アニキが女優アンジェリークのツバメだったら」 レオナードお兄ちゃんの台詞に、エンジュは急に躰を硬くする。 「…それはないわ…。彼女は私のパパ、一筋だもの」 エンジュの言葉に、私とレオナードお兄ちゃんは驚いて思わず顔を見た。 「え? まさか、エンジュは…」 レオナードお兄ちゃんは言い難いそうに言葉を選んで話す。 「私はパパとママの子供。ただパパとアンジェリークの関係は、私が産まれる前から続いているの。それだけ」 淡々と話すエンジュに、私もレオナードお兄ちゃんも顔を見合わせた。 「レオナードさんのおかけで、今、こうやって話しをすることが出来るのかもしれない…」 エンジュは穏やかさとどこか華やかさを秘めて笑う。少し早く来た秋の空のような笑顔だった。 「アニキが気になるな、覗いてみるか?」 「レオナードお兄ちゃんっ!」 私はレオナードお兄ちゃんを窘めたが、お兄ちゃんの好奇心はかなり勝っている。流石はパパラッチカメラマンなだけある。 「…でもアリオスさんとアンジェリークがホントに不適切な関係だったら…」 エンジュもまた心配そうに見つめている。 ふたりは不適切な関係なんかじゃない。 ふたりの関係は、正真正銘の母子何だから。 でも私はその重い秘密を口に出すことは出来ずに、ただ黙っていることしか出来なかった。 結局は、レオナードお兄ちゃんとエンジュに押し切られる形で、私はふたりのやり取りを見ることになった。 そっとふたりに近付いてみる。 最初は小さな声で、ぷつぷつと聞こえていたけれど、よくよく耳を澄ましてみると聞こえてくる。 「…断る」 アリオスお兄ちゃんの声が、少し荒くなった気がした。お兄ちゃんの表情はかなり厳しい。 私は真摯な気分で様子を探った。 「…私、あなたを引き取りたいの。クラヴィスは是非あなたを養子にと言っているわ。その方があなたには幸福じゃなくて…?」 アリオスお兄ちゃんは険しい顔のまま、表情が全く変わらない。 だが、私は衝撃だった。アリオスお兄ちゃんがアンジェリークさんの養子になる…!? そんなバカな! 私の側から離れるなんて、許したくない。 お願い。 アリオスお兄ちゃん! そんなことは受けないで! お願いだから…! アリオスお兄ちゃんの答えを待つだけで、鼓動は烈しくなり、喉はからからに渇く。 どうかお願い…! アリオスお兄ちゃん! 私は心から祈り、アリオスお兄ちゃんが私の側から離れないように利己的に祈った。 だから周りの様子は見えていなかった。特にエンジュを…。 「…俺は今の家族といるのが一番幸福なんだよ」 全身に安堵のアドレナリンが流れていく。良かった。ほっとしたものが流れて、私は泣き出したくなった。 だが、それもつかの間。とんでもない爆弾が、私達に落とされる。 「実の親なのよ!? 私もクラヴィスも!」 一瞬、あたりの空気が張り詰めたような気がした。 「エンジュ!?」 レオナードお兄ちゃんの緊迫した声に振り向くと、そこには紙のように顔色を白くさせ、硬直したエンジュがいた。 「クラヴィスは私の父親なの…。アリオスさんは私の兄だわ…」 |
| コメント アリオスさんとアンジェの恋は佳境です |