とらわれの姫君

28


 レオナードお兄ちゃんの爆弾発言に、それこそ私達はのけ反るほど驚いた。
 レオナードお兄ちゃんとエンジュは、すっかり自分たちの世界に入ってしまい、周りすら見えてはいない。
「レオナード…」
 お母さんは取り乱しはしないものの、かなり驚いているのは確かだ。
「…レオナード、お嬢さんはまだ若いのよ。それは解っているんでしょうね」
「ああ」
 レオナードお兄ちゃんの決意は高いらしく、その表情は真摯に引き締まっている。
「お嬢さんの学校のことだとかを考えてあげた? まだアンジェと同じ年なのよ? あなたの小さな妹と」
 お母さんは本当に冷静で、レオナードお兄ちゃんは言葉に窮している。エンジュへの想いだけて、レオナードお兄ちゃんが口走ったのは明らかだ。
「…でも私、レオナードさんと一緒なら、何でも大丈夫だと想っているんです! どんなことにも対処出来るような気がするんです!」
 エンジュの舌は、レオナードお兄ちゃんよりも更に滑らかで、プロポーズを受け入れていることは必至だった。
「俺達は色々と至らないところはあるかもしれねえが、一生懸命頑張って行こうと想っている。だから、俺達を認めてくれ!」
 レオナードお兄ちゃんは、エンジュに後押しされた形ではあったけれども、しっかりと自分の意見を貫いている。
 レオナードお兄ちゃんを嬉しそうに見るエンジュがとても素敵で、アリオスお兄ちゃんと私もああであれば良いのにと、想わずいられなかった。
「…少し…、話し合いが必要のようだ…。私の一存では決められない…。エンジュ、お母さんも交えて話し合いを持たなければなるまい…」
 訥々とクラヴィスさんは話し、娘に懇々と言って聞かせる。
「うちも話し合いが必要よ! レオナード! おばあちゃんを交えて家族会議をしなくちゃならないわよ」
 やはり四人もの子育てをしてきたお母さんも冷静で、的確にものを言う。
「…アンジェ、俺達もきちんと話す機会だと想わないか?」
 小さくアリオスお兄ちゃんが囁いて来て、私はほんのりと頷く。
 凄く気分はご機嫌だった。
「…では、とりあえずは家族会議をかけるということで…、双方の家族は異存がないことでよろしいな…」
 お母さんはしっかりと頷いたけれども、レオナードお兄ちゃんだけは渋々頷いたようだった。
「改めて連絡を取り合って、双方で話し合いをするということで、構いませんね?」
 お母さんはすっかりと場を仕切ってしまい、そこにいる主役が一体誰なのかが解らなくなるぐらいだ。いつもこういったところはしっかりとしているのだ。
「…解った…」
 クラヴィスさんが頷き、これで両家の商談は成立。握手となったが、主役のレオナードお兄ちゃん、エンジュは全く蚊帳の外と言った感が拭えなかった。
「じゃあエンジュちゃん、また遊びにいらっしゃい。あなたとレオナードには決して悪いようにはしないからね」
「有り難うございます!」
 お母さんはそっと笑いかけ、エンジュの緊張を取ってしまう。そこには歴戦の将の雰囲気があった。
「…じゃあ、お願いします。レオナードさんのこと…、私は本当に大好きですから…」
「解っているから…。レオナードもきちんと話し合って、ふたりで暮らせるようにする為に色々と話し合わなければならないでしょう。そんな顔をしない」
「ああ」
 レオナードお兄ちゃんは子供の頃はとてもお母さん子だった。だからいざというときはお母さんに弱いのだ。
「…解ったよ、おふくろ」
 わざと不機嫌に言うのは、レオナードお兄ちゃんのくせ。そこには熱い愛情があることは、誰でも解っている。
「アリオスお兄ちゃん…、カッコイイね、レオナードお兄ちゃんは…」
「そうだな」
 私達は、お母さんに解らないように、そって手を繋いだ。
「じゃあエンジュ、必ずおまえを迎えに行くから、おまえは笑って待っていればいい」
「レオナード…」
 レオナードお兄ちゃんにきっぱりと宣言されたエンジュは、本当に嬉しそうで、潤んだ信頼が溢れた眼差しでお兄ちゃんを見つめている。幸福と恋が溢れているような気がした。
「可愛いから待ってろよ!」
「うん!」
 ふたりの本気モードに、私はきっぱりすっきり応援してあげようと決める。
「じゃあ、レオナード…」
「ああ、また来い。今度は正式に俺のものになって来いよ!」
「もう…! 皆様、お騒がせしました。今度は皆様の家族になっていられるように、頑張ります!」
 エンジュはしっかりと頭を下げ、私達に挨拶をしたが、その眼差しは常にレオナードお兄ちゃんを見つめていた。
「…では、お騒がせ致しました…」
「…ではまた」
 クラヴィスさんとエンジュは静かに黒塗りの高級車で帰っていく。
 そういえば、エンジュはかなりお嬢様で、酪農製品を手広く扱う会社の、社長令嬢だった。
 レオナードお兄ちゃんが入り婿になるのかなあ。そんなことを考えながら、私はふたりが乗る車を見つめていた。
「さてと! 明日にはおばあちゃんが帰って来ますからね! 準備! 準備! 明日はエルンストも交えて家族会議よ!」
 お母さんがきっぱりと宣言した時に、噂をすれば影とばかりに、エルンストお兄ちゃんが帰ってくる。
 しかもレイチェルと一緒に。
「えへへ…、アンジェおひさー!」
「久し振り、レイチェル」
 私が言うと、レイチェルは本当に恥ずかしそうに笑う。
 珍しくふたり揃ってのご登場に、私は勘繰る。
 まさかこのカップルも、何かある?
 エルンストお兄ちゃんは冷静だったが、顔はほんのりと赤い気がしていた。
「…みなさんもお揃いのようなので、ここはびしっと言わせて頂きます! レイチェルに子供が出来ましたので、結婚します!」
 またまた爆弾発言が炸裂し、私達は更に大きな衝撃が走る。
「えへへ、三ヶ月なんだ…」
 レイチェルは幸せそうに笑い、何処か照れ臭さそうだった。
「ったく、エルンストアニキは手が早い。その上、相手が女子高生だなんて…!」
 レオナードお兄ちゃんは自分のことを棚に上げて言う。
「おまえが言う資格はねえだろうが!」
 その通りアリオスお兄ちゃんとばかりの、恫喝が入るけれど、アリオスお兄ちゃんだってひとのことは言えないと思うんだけれど。
 全く三兄弟揃って女子高生好きだとは、頭が痛いというか…。
 お母さんの顔がシビアに輝いた。
「エルンスト! レイチェルちゃんのご両親にはちゃんとお話したの?」
「はい、先ほど。レイチェルの意思なら構わないと。ただ彼女のキャリアを危ぶまれていましたが、私が全面にバックアップすることで合意し、解決致しました」
 流石はエルンストお兄ちゃん。処理はコンピューター並だ。
「まったく、あなたたちは次から次へと…!!」
 お母さんは呆れて物が言えないとばかりに溜め息をはく。
 お母さんが溜め息をつくのも無理はない。でも私達もひとのことは言えないのだけれど。
 アリオスお兄ちゃんがそって背中に手を回し、私に合図をしてくる。
「俺たちも言っちまおうか」
「…うん…。騒ぎはついでにの方がいいかも…」
「そうだよな」
 私達がこそこそとしながら話していると、お母さんがじっと私を見つめてくる。
「アリオス、アンジェリーク、何か言いたいことはないの?」
お母さんの鋭い視線に、私達は観念する。きっとお母さんだって、私達が何を言いたいのか解っているはず。
「…言うぜ」
「うん」
 アリオスお兄ちゃんは私に囁きながら、ぎゅっと手を握り締めてくれた。
「俺も宣言するぜ! 俺とアンジェも一緒になる」
 アリオスお兄ちゃんはしっかりと宣言をすると、私と絡めた手を思い切り上げた。
 これにはレイチェルが仰天する。
 仕方がないか。彼女は私達が他人であることは知らないのだから。
「アリオスさんとアンジェは…」
「俺達は血が繋がっていねえんだよ」
 アリオスお兄ちゃんが宣言してくれたのを受け、レイチェルはしたり顔で頷く。
「…だからか…。アンジェのことをじっとアリオスさんは見つめていたんだ…。許されざる恋だと思っていたけれど、そんな事情があったんだ…」
 しみじみとレイチェルは呟き、私には本当に良かったとばかりの笑顔を向ける。
「レイチェル、よく解ったな」
「だってワタシはずっとアンジェのことを見ていたからねぇ! だってアンジェのことが大好きなんだもん」
 レイチェルのストレスな物言いに、エルンストお兄ちゃんはあたふたと慌てる。
「レイチェル! あ、あなたは、私よりもアンジェリークを…!?」
「まあさか。エルンストが大事に決まっているじゃない!」
 思い切り背中を叩かれたエルンストお兄ちゃんは、こふこふと咳をしながらも、幸せそうに笑った。
「でもレイチェル、良かったね! 私も叔母になるのが待ち遠しいわ!」
「うん! ありがと! アンジェも良かったね!」
「うん!」
 私とレイチェルはお互いに手を取り合って喜びあっていた。本当に嬉しい。
「もぅ、あんたたちは! 明日の家族会議できちんと決着をつけるからね!」
 お母さんにぴしりと言われてしまい、私達はぐうの音も出なかった。
「…アリオス、あなた、いつから…」
 ふとお母さんの表情が寂しそうになる。
「俺はカティスとディアの息子だ。これまでもこれからもだ…」
「そうね。そう。私は伊達にあなたの母親を28年もしてないもの」
「そうそう」
 アリオスお兄ちゃんとお母さんのやり取りを聞いていると涙が出そうになる。
 明日の家族会議が上手く治まればと思わずいられなかった。
コメント

アリオスさんとアンジェの恋は佳境です
早く完結させたいです。



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