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「アリオス先生は、先生なのに…、そ、そんなことを言って、よ、宜しいのでしょうか!?」 「宜しいに決まっているじゃねえか。俺は欲しいものは堂々と奪いに行く主義なんだよ。まあ、俺の場合、相手の同意は聞くがな。一応は」 教師が聖職だという感覚も、生徒に手を出すのはタブーなどの感覚は、この男に至っては、一切持ち合わせてはいないようだ。その証拠に、いけしゃあしゃあと言ってのけている。 アンジェリークは頭が痛くなる以前に、唖然としてしまう。 「…だって先生じゃない…」 「確かに俺は教師かもしれねえが、だからこそ可愛い教え子に、男と付き合う方法をしっかり教えてやろうって思うんじゃねえか。これぞ立派な親心ってやつじゃねえか」 危うさと甘さが同居した意地悪な眼差しに、アンジェリークは捕らえられる。縫い止められて、動くことが出来ないでいる。 「どうだ? おまえにぴったりな恋愛個人授業だ。授業料はただでいい。これぞ、俺の先生としての親心だろ?」 躰の横に手を付けられて、完全にアンジェリークは、アリオスの手中に納められてしまった。 「さあ、どうする!?」 「どうするって言われても、その…」 アンジェリークは鼓動をダンスのように激しく跳ね上げさせながら、アリオスをじっと見つめる。 「アリオス先生…その…」 アンジェリークは戸惑いを隠せないまま、アリオスを上目使いで見る。すると、アリオスは苦笑した。 「そんな顔をするなよ。俺以外の男だったら、ホテルに直行ぐれえの色気だぜ?」 眉を上げて、アリオスはアンジェリークを艶のある眼差しで見つめてくる。全く、色気があるのはどっちのほうだと、思わずにはいられなかった。 「無意識だな、おまえ…。それは」 「あ、その、あの…」 本当にアリオスの側にいるだけでくらくらしてくる。近くに感じる男らしいそれが、こんなに胸をときめかすなどと、アンジェリークは思ってもみなかった。 「レッスンしねえと、おまえはとんでもねえ目に遭うかもしれねえぜ? どうだ? 俺とレッスンを受ける気になったか?」 「あ、あの…その…」 アリオスの目で見つめられていると、どうもおかしな気分になる。全身に血が駆け巡り、今までに増して熱い感覚が襲ってきた。 「返事は?」 理性は、結論などはまだだと言っていると言うのに、アンジェリークの本能が暴走を起こす。 「…お、お願いします…」 「ああ。最高の恋愛レッスンにしてやるぜ?」 アリオスに目を細めながら眩しく言われると、アンジェリークですらもその気になるから不思議だ。 「じゃあ基本的なレッスンな。恋人同士のごくごく普通のデートの時に、必要だと思うものは?」 いきなり言われても、上手く考えられない。アンジェリークは散々考えた後、ひとつの答えを導き出した。それはいつもアンジェリーク自身が、憧れに思っている行為。 「手を繋いで歩くこと。可愛いスキンシップだわ」 「そうだな。じゃあやってみようぜ」 「あ、あの…」 アリオスの形が良い手が、アンジェリークに差し出される。この手に思いきりにぎりしめられたい。綺麗な指先に包み込まれたら、なんて素敵な気分になるだろう。 アンジェリークは無意識に思い始める。 「ほら、アンジェリーク」 「あ、失礼します」 「ったく他人行儀なことをする女だぜ!?」 アリオスは苦笑しなからアンジェリークの手を奪いにくる。 「きゃっ!」 「おまえは、俺の恋人だろ? そんな遠慮はしねえものだろ?」 アリオスにぐいっと掴まれた手は、とても温かく、アンジェリークの心の奥までじんわりと浸透していく。 「想像豊かなおまえのことだ、今まで色々と想像したこともあっただろ? イメージしたことを思い出してみろよ」 アンジェリークは夢に何度も見たデートの風景を思い出す。アンジェリークにとってはとても大切な想像でもあった。 「…手を繋いで、公園を気持ち良く散歩したい…」 「オッケ、叶えようぜ」 アリオスはアンジェリークの手を、痛くなる一歩手前の心地良い位置で引いてくれる。 夢にまで見たロマンティックな瞬間だ。 あんなに強引なのに、昨日までは全く眼中になかったと言うのに、ずっと前から好きだったような感覚すら湧いてくる。 ずっと前から、この瞬間を待っていたような気がする。眠り姫なように、こうなるまで待っていたんだと、アンジェリークは気付いた。 「アリオス先生、あの…」 「先生も肩書も何もいらねえ。ただ、アリオスと呼んでくれたらいい」 アリオスがあっさり言うものの、アンジェリークは上手く同意することが出来ない。やはりアリオスは、アンジェリークにとっては「先生」なのだ。 「ちょっとそれは…」 「いいから、アリオスと呼べ。それ以外は返事をしねえ」 まるで子供が拗ねるように言われてしまい、アンジェリークは困った。 「先生、我が儘ですか?」 「さあな。それは付き合って見れば、解るんじゃねえの?」 アリオスは挑むようにアンジェリークを見つめてきたので、言葉を失う。アリオスに勝てるわけがないのが、よく解っているから。 「解りました、アリオス…」 ”先生”という言葉を飲み込むと、何だか違和感がある。だがそれを何とか消化した。 「敬語もなし。見合い相手の初デートじゃあるめえし。普通恋人同士は、んなことしねえだろうが」 アリオスにきっぱりと切り捨てられてしまったので、アンジェリークは結局、黙るしかなかった。 「おら、普通の恋人同士みてえに力を抜いて、リラックス」 「うん」 そんなことを言われても、リラックスなんて出来ない。アンジェリークは頬を赤らめながら、アリオスに引っ張られるだけ。 「花見シーズンで賑やかだな。あんな所に焼鳥屋台があるぜ」 「えっ!? 焼鳥!」 アンジェリークは瞳を輝かせて、焼鳥に向かって躰を捩る。 「おまえ、食べ物作ったり食ったりするの、好きみてえだもんな。奢ってやるよ」 「ホント!?」 アリオスのプレゼントのような言葉に、アンジェリークは途端に瞳を輝かせる。 「あの焼鳥ジャンボで美味しそうっ!」 食べ物関係に関しては目がないアンジェリークは、逆にアリオスを引っ張る勢いだ。 結局ジャンボ焼鳥四本、たこやきを買って貰い、ご満悦な気分になった。 「アリオス、有り難う。おいしい!」 アンジェリークはサファリワールドのライオンのように大きく口を開けて丸かぶりをする。 それをアリオスが楽しそうに見てくれていたので、アンジェリークは照れ臭いような、はにかんだ表情をした。 「おまえが食ってたら、何でも美味そうに見えるな。一口くれ」 アリオスは、アンジェリークが口をつけた後でも全く平気そうに、上から食べてくる。 間接キス。 アンジェリークは急にドキドキした。 間接キスぐらいでこんなにときめくなんて、全くどうにかしている。 先程のキスはもっと深いものだったのに…。 「おい。何を真っ赤になっているんだよ?」 からかうように言われて、アンジェリークは気に喰わない。 「何でもありません」 拗ねても、アリオスにはこの魔法は効かない。アンジェリークは口を尖らせることでしか、対抗出来なかった。 「タコ焼きは決まっているだろ? 味見はあーんだぜ?」 「解りました」 アンジェリークは仕方がなく、アリオスにタコ焼きを挿した爪楊枝を差し出し、食べさせてやった。 「まだまだ下手くそだな。もっと上手くなるように、練習台になってやるよ」 アリオスにまた意地悪をされたのが悔しくて、アンジェリークはつんと顔を背けた。 食べ物と桜を楽しみながら、アンジェリークはアリオスと公園を闊歩する。その間に、一度も手を離したことはなかった。 「アリオス、どうしていつも眼鏡をかけて、ボサッとしているの? こんなに…その…、普通に見れば素敵な男性なのに、どうして…」 アンジェリークは言葉を選びながらも、率直に疑問をきいてみた。 「決まってる。女は煩わしい。わざとあんなスタイルをしているのは、俺に言い寄るのはうぜえヤツばかりだったから、それが嫌だったまでだ」 アリオスは機嫌が悪いと直ぐに解るような不思議な声で言う。 アンジェリークは胸の奥がちくりと痛んで、涙を流しているように思えた。 「私たち生徒が面倒臭いからですか?」 「んなことはあるかもな。ただし、おまえは別だ。覚えておけ」 ストレート過ぎるアリオスの台詞に、アンジェリークは一気に雲の上まで舞い上がる。 桜吹雪と共に、アンジェリークの恋は始まりを告げた。 アリオスとのお花見デートは中々楽しいもので、アンジェリークは家に帰ってからもときめきを持続させていた。 明日の学校が楽しみなのは、本当に久し振りのことだ。 翌朝、アンジェリークが学校に乗り込むと、アリオスと廊下ですれ違う。 「アリオス先生! おはよう!」 アンジェリークが元気よく挨拶をすると、アリオスはすっと冷たく挨拶をすると、横をすんなりと通る。 アンジェリークは何だか切なかった |
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