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孔明からの報告が終わり、再び玄徳とふたりきりになった。 「…これで処理は一区切りついたな」 玄徳は安堵したかのように溜め息を吐くと、花を再び見た。 「今日はふたりでゆっくりと過ごそうか」 「…はい」 いつも多忙な玄徳と一緒に過ごせる機会は余りない。だからこそ、この貴重な時間は嬉しい。 「玄徳さんは無理をされないで下さいね。今日はゆっくりとして下さい。お休みになったほうが良いと思います」 のんびりと休みながら、玄徳のそばにいられたらそれだけで充分だ。 玄徳と一緒にいるだけで嬉しいのだから。 「…花…。有り難うな。それと…すまなかった…。お前を色々と苦しめてしまったからな…。俺は…」 玄徳は苦しげに呟くと、浅く呼吸をする。 「軍や民を守る為だった…。お前に話をしてやりたかったが…出来なかったことを許してくれ…。お前は俺にとっては最高の軍師なのにな…」 花は静かに頭を横に振る。 「師匠はご存じだったんですよね?」 「ああ…。孔明には話しておいた」 「だったらそれで構いません。玄徳さんにとってはそれは仕方がないことだったんですから…」 花に話せなかった理由は分かる。 玄徳としては当然だ。 「…花…。有り難う…」 玄徳は花を再びギュッと抱き締めてくれた。 こうして愛するひとに抱き締められる。 それがこんなにも幸せなことだなんて、花は思ってもみなかった。 「…花…、ずっとそばにいてくれ…」 玄徳は掠れるような艶やかな声で呟くと、更に花を抱き締めた。 もっと強く抱き締めて欲しい。 もっと強く。 壊れるぐらいに抱き締めて貰っても構わない。 花もまた玄徳を力強く抱き締める。 玄徳の息が僅かに乱れた。 そこには熱い想いが迸っている。 玄徳は抱擁を優しく解くと、花にもう一度キスをする。 甘くロマンティックなキスを。 「…ちゃんと正式に言わなければならないよな…」 玄徳は自分に言い聞かせるように呟くと、花を見る。 「俺は尚香とは正式に結婚してはいない。だからお前に正式に伝える」 玄徳は深呼吸をした後、花の手を取った。 「…花…、俺の妻になってくれ」 玄徳は真直ぐ花を見つめてくれる。 誠実なプロポーズ。 飾り気はないけれど、花は何よりも心が籠ったプロポーズだと思った。 「はい、あなたの妻になります」 花は笑顔で返事をしようとしたが、余りに感動してしまい上手く笑顔では言えなかった。 ただ涙が零れ落ちてしまう。 こんなにも魂が震えることはいまだかつてなかった。 「…花…、有り難う…。俺は今後、他の妻は一切娶らない。お前だけを一生愛する…」 玄徳は言葉のひとつ、ひとつを噛み締めるように言うと、花に誓いを立てるように抱き締めてきた。 「私も玄徳さんだけを愛します。一生…」 玄徳を愛している。 それは一生変わらないこと。 花は抱き締められながら、強くそれを感じた。 「今夜はふたりだけで祝って、皆で祝って貰うのは後からにしよう。今はお前を独占したいから」 「はい」 大好きな仲間だから、祝って貰えたらとても嬉しい。 だが、今日はやはり玄徳とふたりだけでお祝いをしたかった。 ふたりで祝って幸せを噛み締めたい。 「花、ふたりで祝う為の準備をしてくれないか?」 「はい…。何をすれば良いのですか…?」 花は準備をすると言ってもこれと言って思い付かなかった。 「お祝いをするのに、その軍師の装束はどうかと思ってな…。やはり、女性らしい格好をして欲しいが、構わないか?」 「はい。分りました」 「では早速、準備をさせるから」 「有り難うございます」 本当は今頃は元に戻っているところだった。 だが、この世界で愛するひとのそばにいることに決めたのだ。 玄徳は花の頭を優しく撫でてくれた後、抱擁を解いて立ち上がる。 「花、ここで待って…。いや、一緒に芙蓉のところに行こう」 「はい」 玄徳の後をちょこまかと着いていくと、不意に手をギュッと握り締められる。 「花、俺から離れないでくれ」 「はい」 こうして堂々と手を繋いでくれるのは初めてなのかもしれない。 花は玄徳に手をしっかりと取られたまま、芙蓉の部屋に向かった。 「芙蓉いるか?」 「はい。玄徳様」 芙蓉は返事をするなり、直ぐにやってきてくれた。 「まあ!」 花と一緒にいる姿を見るなり、芙蓉は嬉しそうに口に手を宛てた。 「花を綺麗にしてくれ。ここで生きていく以上は、その装束に慣れる必要があるだろう」 「解りました。----花、思いっきり綺麗にしてあげるっ!」 「頼んだ」 芙蓉に綺麗にして貰えるのならば完璧にしてくれるだろう。 最初の時もとても綺麗にしてくれたのだから。 「じゃあ花はお預かりします。終わりましたら、玄徳様の部屋に花を連れて行けば良いんですね」 「ああ。頼んだ」 玄徳はそう言うと、その場を立ち去ってしまった。 「花、玄徳様を驚かせるために、徹底的に綺麗にするわよーっ! 今よりももっと玄徳様を惚れさせるんだからー!」 「う、うん。芙蓉姫宜しくね」 芙蓉姫に頼んでおけば、恐らくは大丈夫だろう。 花はそう思いながら、芙蓉姫に総てを任せることにした。 芙蓉姫は、前回よりも少し大胆な着物を選び、花に着付けていく。 「これは玄徳様だけ用ね。他の男性の前でこの格好をしたら、玄徳様はあなたを腕の中に閉じ込めて離さないわよ」 芙蓉姫は楽しそうに言うが、花は些か不安になる。 芙蓉姫や孫夫人のように女性らしい美しき曲線があるわけではない。 だからこのような大胆なスタイルは似合わないのではないかと、花は思った。 「…花、じっとしていてね。きちんとお化粧もしなくちゃならないから」 「…う、うん」 化粧をしたぐらいで、綺麗になるのだろうかと花は思う。 綺麗になれたら嬉しいが、元がこんなにも子供っぽいとどうなるのだろうかと、花は思った。 芙蓉姫のように綺麗にはなれないのではないかと思う。 芙蓉姫は髪を器用に結い上げてくれる。 「凄い! これだったら玄徳様はメロメロかもね。玄徳さまはただでさえ花にはメロメロだけれど、溶けてしまうかもしれないわね」 芙蓉姫は楽しそうにくすくすと笑っている。 そんなにも綺麗になれたのだろうか。 花は不安になって芙蓉姫を見た。 「大丈夫よ。あなたは本当に美しくなったわ。こちらが見惚れてしまうぐらいよ」 女性に褒められると嬉しいのと同時にとても照れ臭い気分だ。 「花、見てみる? あなたは本当に綺麗よ! 玄徳様にはかなり勿体ないと思うわよ」 芙蓉姫が力強く言うものだから、花はつい照れくさくなってしまう。 鏡を見せられて、花は驚いた。 確かに綺麗になっている。 こんなにも綺麗にして貰えて、花は泣きそうになるぐらいに嬉しい。 「芙蓉姫…有り難う」 「いいえ。あなたの役に立ちたいのよ。今日のあなたは最高に綺麗よ。誰にも負けないのは間違ないわよ。だから自信を持って」 「有り難う」 芙蓉姫に言われると、それだけで元気が出て来るのは不思議だと、花は思う。 「さてと花、玄徳様のところに戻りましょうか。きっとあなたを待って落ち着かなくしていることだろうから」 「そうかな」 「そうよ」 芙蓉姫は力強く言うと、玄徳の居室に向かう。 芙蓉姫は用心深くに部屋まで向かった。 「玄徳様、花を連れてきました」 「ああ」 部屋の扉が開かれる。 その瞬間、玄徳に抱き締められた。
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