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古賀の「問題ない」という言葉に後押しをされて、未来は自分を支えてくれる”誰か”にメールを送る事にした。 アドバイス通り、感謝を込めたメールを定期的に送ろうと決めている。 携帯を手に取ると、未来はメールをし始めた。 To XXXXXXXX@hopmail.com From mirai_cherryblossom@np-k.ne.jp Subject:お言葉に甘えて こんにちは。未来です。 温かなメールをどうも有り難うございました。 前回は不躾なメールを失礼いたしました。 反省しています。 色々考えて、大変図々しいかもしれませんが、あなたの優しいお気持ちに、甘えさせていただく事にしました。 正直、折角夢のために入った大学を辞めなければならないと考えていたのですが、あなた様のご厚意で続ける事が出来ます。 あなた様のご厚意に甘えて、夢を諦めない事にしました。 私の夢は立派な通訳になる事です。 そのために、甲晃大学の英文科に入学しました。 ここは通訳になるには、大変良いカリキュラムを組んでいます。 その授業をあなたのお陰で受ける事が出来ます。 本当に有り難うございます。 一生懸命勉強をして、あなたのご厚意に恥じないようにがんばります。 いつかいっぱい、いっぱい、お恩返しをしますから、それまで待っていて下さいますか? それまではあなたにずっとメールを送り続ける事をお許し下さい。 私にとって夢までの道程を報告する事しかできませんから…。 優しい、温かなまだ見ぬあなたへ。 またメールします。 お身体にお気を付けて。 未来。 メールを打ち終え、未来はとても優しい気分になる。 こんなに安らいで、甘い気持ちになったのは、兄が亡くなってから久しぶりの事だ。 返事がとても待ち遠しい。 温かな他人の親切を感じ、少しずつ心が落ち着きを取り戻し始めていた。 訴状の準備が深夜までかかり、古賀は疲れ切って家に付いた。 何もない冷たい部屋。 過去への想いに埋もれた部屋は、今は何も古賀には与えてはくれない。 シャワーを軽く浴びた後、プライヴェートのノートパソコンを立ち上げてメールをチェックする。 最初にチェックするのは、やはり未来専用に作ったメールアドレスだ。 そこには彼女らしい優しいメールだった。 一生懸命生きる未来の想いが伝わってくる。 読むだけで自然と優しい微笑みが出た。 ストレスすらもどこかに行ってしまう。 古賀は優しい気分になると、早速、未来に宛ててメールを打ち始めた。 To mirai_cherryblossom@np-k.ne.jp From XXXXXXXX@hopmail.com Subject:有り難う。 メールを有り難う。 そう言ってもらえると、僕も非常に嬉しく思います。 君の素晴らしい夢が叶うように、祈っています。 そのためには、努力をしなければ行けませんが、君ならきっとやり遂げるでしょう。 君の夢が敵うように、僕も微力ながら応援していきます。 恩返しは、君が立派な通訳になる事が、僕にとっては最も嬉しい事です。 夢のために、大学の講義を頑張って下さい。 君なら夢を現実に変える事が出来るから…。 僕はいつでも君の傍にいます。 寂しくなった時、君には僕がいる事を忘れないで下さい。 誰よりも愛しい君へ…。 古賀は送信ボタンを押しながら、心から祈る。 未来…。 君のこれからの人生が、明るく幸せに満ちたものになりますように…。 柔らかな春の終わり----- ひとつの恋が緩やかに幕を開けようとしていた----- To XXXXXXXX@hopmail.com From mirai_cherryblossom@np-k.ne.jp Subject:あしながおじさん こんにちは。未来です。 あなたを「あしながおじさん」とお呼びしても構わないですか? 子供の頃、アニメでこの話を見て、その後本も読んでとても感動しました。 あなたがあの”あしながおじさん”に思えます。 きっと小説同様ステキな方なんでしょうね? いつかあなたにおあい出来ればと思います。 小説のヒロインのように。 ところで。 あなたのお陰で、英語関係の成績ですが、総て優と秀でした。 凄く嬉しかったです!! これからも夢を叶えるためにガンバリます! 大好きなあしながおじさまへ。 未来。 メールをやりとりしていつうちに、メールを打つのも、そして貰ったものを読むのも、未来にとって最大の楽しみになっていった。 温かなメールは、独りではないことを教えてくれ、優しく、力強く支えてくれる。 自分の夢の事や、他愛のない事まで。 未来は何気ない日常の事などを、報告するメールを送る。 メールのやりとりはなくてはならないものになっていった。 それは古賀にとっても同じであった。 どんな困難があっても、未来のメールさえあれば癒され、活力になる。 出逢った時よりも、もっともっと君が愛しい…。 未来…。 私は、君にとって和希君以上の存在になれるんだろうか…。 古賀は闇に浮かぶ桜塚の街を見つめながら、未来の家のある方向に視線を向ける。 今夜もよく眠れているか? 今日も”あしながおじさん”からメールを貰い、未来は幸せな気分になった。 誰よりも愛しい君へ…。 その言葉が凄く癒される。 あしながおじさん…。 あなたに会いたいです…。 逢いたくて溜まらないです…。 未来は遠くに見える桜の木を見つめながら、”あしながおじさん”への思慕を募らせる。 逢いたくて堪らない------ 未来にとって、あしながおじさんが、今の心の支えだった。 「何、メールの主を捜して欲しい?」 「はい」 未来は自分ではお手上げなので、古賀に思い切って相談してみる。 真剣な未来の眼差しを見つめ、古賀は考え込む振りをして眉根を寄せた。 「…何か手がかりは?」 「メールアドレスなら…」 途端に未来は手がかりのなさに、少し恐縮するように言う。 「メールアドレスですか…。メールを管理する会社にも守秘義務がありますからね…」 古賀が言葉を濁すと、未来は唇を噛む。 「…逢って一言お礼を言いたいんです。 私を支えて下さっている事を! 私は、私の”あしながおじさん”にいつも励まして貰って、経済的だけではなく、精神的にも支えて貰っているんです…。どうか、先生!」 未来は大きな瞳を涙で滲ませながら、古賀に一生懸命訴える。 彼女の”あしながおじさん”への思慕を感じ、胸が苦しくなる。 本当は名乗り出たい。 だが名乗り出る事が出来ない。 古賀は一瞬苦しげに瞳を閉じると、ゆっくり目を開けて未来を見た。 そこにはもう、切ない感情は含まれていない。 「------判りました。メールアドレスをお預かりします」 「有り難うございます!」 未来はメモにメールアドレスを書くと、古賀に渡す。 「先生、お願いします! 頼るのは先生しかいなくって…」 「判りました。善処します…」 古賀は無表情でメモを受け取りながら、未来に探す事を請け合った。 途端に、未来の表情が明るいものとなる。 「有り難うございます!」 明るく笑った未来の表情はとても清々しくて、古賀は眩しさの余り目を眇めた。 「それでは先生」 「ああ、またな。立花君」 古賀は未来の姿を見送りながら、切ない表情を瞳に浮かべる。 未来…。 君は私が”あしながおじさん”だと知ったら、素直に喜んでくれるか? 古賀は窓から優しい力強い光を感じる。 「もうすぐ春なんだな…」 和希が亡くなってもうすぐ1年。 未来と古賀の運命が間もなく動き出す------ 恋は猛スピードで燃え上がっていく…。 |