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兄が亡くなり、”あしながおじさん”との交流が始まって、もうじき1年になる。 明日は両親と兄の一周忌法要------ あれからそんなに月日が経ったのかと、未来は感じずにはいられなかった。 窓の外を見ると、桜の丘の桜の木が見える。 蕾も随分膨らんできている。 不意に、桜の木の上に不思議な光が輝いた。 柔らかな優しい光------ 懐かしいその温かさに、胸がときめかずにはいられない。 未来はすぐに家を飛び出していた。 間もなく桜が咲くとはいえ、まだ夜は肌寒い。 風邪を引く事など承知の上で、未来は桜の丘まで駆けた。 桜の丘に到着する頃には、さきほど光った光などなく、夜空も曇り始め、美しい星の瞬きも消えている。 なんだか…。 今夜はここにいなければならないような気がする…。 風が出始め、桜の枝をさわさわと揺らし始め、思わず耳を澄ませる。 不思議な力に誘導されて桜の木に近付くと、そこには、誰かがいた。 未来ははっとし、しばらくその”誰”かの影を見つめる。 実際はほんの1秒ぐらいだったかもしれない。 だが、それはもっと長い瞬間に思えた。 相手も未来のことに気が付いたのか、ゆっくりと丘を下り始めた。 逆に未来は上に上がっていく。 ふたりはゆっくりと近付いた。 その瞬間------ 今まで雲間に隠れていた満月が顔を出し、刹那、相手の顔を映し出す。 -----------!!!!! 未来は息を飲み込み、心臓が止まるのではないかと思った。 スローモーションで見えたのは、確かに兄和希の姿だ。 お兄ちゃん!!!! 余りにもの事実に、未来は立ちつくすしかできない。 暫くして自分を取り戻し振り返ると、その影は遠くなっていた----- 明日はお兄ちゃんの1周忌…。 神様が魅せてくれた夢だったかもしれません…。 翌日、穏やかな日差しの中で、自宅にて両親と兄の1周忌法要執り行った。 参列者------そう言っても、古賀と吾妻木、公平ぐらいのものだ。 特に親類のいないせいか、本当に簡素なものであった。 この法要も、古賀に相談して助けて貰い、未来は心から感謝している。 参列者が帰った後も、古賀だけは家に残ってくれた。 「先生、今日は本当に有り難うございました! お陰で助かりました」 古賀に紅茶を淹れた後、未来は深々と頭を下げる。 「弁護士として、当然の事をしたまでだよ」 古賀はあくまで感情なく言い、どこか事務的だ。 だがそれが彼にとって、自分の本当の気持ちを隠す術である事を、もちろんまだまだ世間を知らない未来には到底判らない。 「…だけど、先生がいなかったら法要もちゃんと出来なかったかと思います! 本当に有り難うございました!」 再び頭を下げた後、未来は古賀に何か言いたそうな表情を向ける。 「先生…」 「何だ?」 「------昨日、桜の丘でお兄ちゃんに会ったんです」 紅茶を飲もうとした古賀の手が止まった。 「和希君に!?」 古賀は一瞬眉根を寄せる。 「------似た男性(ひと)だったかもしれませんが…、昨日の夜にあの丘で見かけたんです…。1周忌に合わせて、ひょっとしてお兄ちゃんが帰ってきたかもしれないって、私…思っています…」 優しい表情をすると、未来はふと寂しげな表情になる。 「それだけで…、凄く嬉しくなりました…。 そんなことで元気になれるなんて、私って、単純ですね!」 未来は柔らかな微笑みを浮かべ、本当に嬉しそうだった。 古賀は少し妬ける。 もういなくなってしまった和希君に嫉妬するなんて…、俺はどうにかしている…。 古賀はほんの一瞬、苦しげにする。 それが未来には、迷惑そうに思っていると映ってしまった。 「あ、すみません! 変な話してしまって…。古賀先生に聴いて貰いたかったんです…」 「そう…」 未来は慌ててしまったと言うような顔をしたが、古賀はあくまでクールに装った。 「では、また。何かあれば連絡を下さい」 流れるように椅子から立ち上がると、古賀は長いスタンスで玄関に向かう。 「あ、先生、本当に有り難うございました!」 「じゃあ」 古賀の後ろ姿を見送ると、未来は急に寂しい気分になった。 古賀さんに悪い事言ったかな…。 私は古賀さんに聴いて貰いたかった…。 古賀がいなくなった後のリビングに戻り、少し虚しく感じる。 古賀が少しだけ口づけたティーカップを片づけたくなくて、暫くそのままにしていた。 翌日、携帯を見るとメールが入っていた。 そのアドレスを見た瞬間、未来は嬉しくなって、少し興奮気味にメールを開ける。 To mirai_cherryblossom@np-k.ne.jp From XXXXXXXX@hopmail.com Subject:学費にお使い下さい こんにちは。 メールをやりとりし始めて1年。 いよいよ君も大学2年生ですね。 夢に向かって勉強に励んで下さい。 一生懸命頑張る君の姿を、影ながら応援しています。 その名の通りの明るい未来を君が築けると信じています。 本日君の口座に僅かですが、学費を振り込ませていただきました。 どうか君の夢に役立てて下さい。 どこにいても愛しい君へ…。 どこにいても愛しい君へ… そこを読むといつもとても嬉しくなる。 早速携帯でnetバンキングをしてみると、なんと驚くほどの金額が振り込まれていた。 「…嘘…」 授業料にあまりある金額に、未来は涙が出そうになった。 私のあしながおじさん…。 本当にどうも有り難うございます。 未来は…とても幸せです…。 未来は涙を拭うと、またメールを打ち始める。 愛と感謝を込めて------ |