2
|
「たまたまだよ、小松さん。私が小松さんと待ち合わせにここに来たら、偶然、ゆきちゃんもいたんだよ。ね?」 小松が冬の嵐のような雰囲気を醸し出しているのに対して、桜智は明るい春の木漏れ日のような雰囲気を出している。 全く正反対だ。 その雰囲気が、まるまるゆきに対しての感情に現れているような気がした。 「ゆきちゃんも、友達と待ち合わせをしているんだよね。サークル関係の飲み会があるらしいよ」 桜智は、小松のブリザードツンドラ気候を中和するような笑顔で、話をしている。 和むような桜智の温かな笑顔も、小松によって完全にかき消されている。 それほど嫌われているということなのだろう。 ゆきはそう思うと、また傷が抉られるような気になった。 「……飲み会と言う名のコンパでしょ?」 小松は白けるように言うと、ゆきを冷徹な瞳で睨むように見つめてきた。 こんな眼差しで見つめられたら、深い傷が更に深くなる。 小松はそれを知っていてやっているのだろうか。 ここにいるのは堪えられない。 「そろそろ行きますね。桜智さん、また」 ゆきは、桜智にだけ挨拶をすると、席から立ち上がって、行こうとした。 「ゆき、待ちなさい」 小松の鋭い声が響いたかと思うと、腕を激しく掴まれる。 いつもの小松と違って、怖い。 ゆきが恐ろしさを瞳に湛えて小松を見ると、一瞬、指先の力が緩んだ。 「ゆき、今日のコンパは中止にしなさい。君は参加しなくても良いから」 小松はピシャリと言い放つと、ゆきを見据える。 そんな瞳で見つめられたら、動けなくなる。 小松の言うことを聞かなければならないような気持ちになってしまう。 「ゆき、お待たせ、え?」 友人がやってくるなり、ゆきたちを見て驚いてしまう。 「君がゆきの友人? 今日、彼女は飲み会には参加しないから。他の人にはそう伝えて」 「は、はいっ」 友人は、すっかり小松に魅いられてしまう。 「桜智、というわけだから、今日の予定はキャンセルさせて貰うよ」 「ちょ、ちょっと」 桜智が止めようとしても、小松は止まらない。 四人分のお茶代をテーブルに素早く置いて、ゆきを引きずるように、カフェから出た。 どうしてこんなにも強引なんだろうか。 今日に限って。 ゆきは小松の表情を盗み見する。 いつもよりも更にクールな表情になっている。 「……小松さん」 「黙っていなさい。二人きりになったら、話をするから」 小松は珍しく感情を滲ませながら呟くと、足早にコインパーキングまで歩く。 「桜智さんと用事があったんじゃないですか?」 「用事は終わったよ。良いから黙っていなさい」 小松は不快そうにピシャリと言う。 小松が不機嫌なのは、自分のせいだと、ゆきは解ってはいる。 だが、それならば、どうして話があるのだと言うのだろうか。 小松の世界に踏み込まないようにと言われても、偶然会うのは、ゆきにはどうしようも出来ないことだというのに。 車にたどり着くと、小松は先ず助手席にゆきを座らせる。 ゆきが助手席に座ると、小松は直ぐに運転席に乗り込んだ。 直ぐに車を発進させる。 ゆきは黙っていた。 また話しかけると、小松は不機嫌になってしまうかもしれないから。 ゆきは小さくなりながら、小松をちらりと見る。 相変わらす冷たい。 本当に酷い。 なのに、この期に及んで大好きだ。 どうしても拒めない。 ゆきは何度も小松の横顔を見ては、溜め息を吐いた。 「もうすぐだから、そんなにも溜め息を吐かないで」 「はい」 ゆきは深呼吸をして、気持ちを整えるようにした。 緊張する。 いったい、何処に連れて行かれるというのだろうか。 ゆきはドキドキしながら、車に揺られた。 車は、高級マンションの駐車場へと入ってゆく。 ゆきは、ここが何処かを直ぐに理解した。 小松の自宅だ。 それを考えると、気持ちが引き締まるような気がした。 極度の緊張に、ゆきは息が出来なくなる。 ドキドキし過ぎて、どうして良いのかが自分自身で上手く消化出来ない。 「降りて。行くよ。誰にも邪魔をされたくはないからね」 小松はピシャリと言うと、素早く車から出る。ゆきもドキドキしながら、おたおたと続いた。 「こっちだよ。着いてきて」 「はい」 ゆきは、ただ緊張しながら、ギクシャクとした動きで、小松に着いていった。 小松はいつもと全く変わらない。素早く、冷徹に行動している。 セキュリティを潜り抜けて、小松は最上階のフロアに入る。 そのなかの一軒が、小松の住宅のようだった。 「ゆき、中に入って」 「はい」 ゆきは恐縮をしながら、小松の家に入った。 「お邪魔します」 ゆきはおずおずと挨拶をしながら、部屋に入る。小松らしい無駄がないインテリアだ。 「そこに掛けて」 言われたままソファに腰掛けたものの、ゆきはそわそわして落ち着かない。 小松とは、随分と昔から知り合いではあるが、一人暮らしをしている家に訪れるのは、初めてだった。 小松は直ぐにお茶を準備をしてくれ、ゆきに出してくれた。 「どうぞ、ゆき」 「有り難うございます」 ゆきは、カチカチになりなが、目の前に腰掛けた小松を見つめた。 こんなに緊張することは本当にない。 「さてと、色々と聞かせて貰おうかな」 まるで小松に事情聴取をされるような気持ちになり、落ち着けない。 「ゆき、どうして、最近、私に連絡をしないの?」 いきなりストレートに訊かれて、ゆきは目を大きく見開いた。 「え、あ、あの。もう近づかないようにと、迷惑だからだと、小松さんに言われたから……」 ゆきは戸惑いながら答える。 そもそも、小松が近づかないようにと、迷惑だからだと言ったから、近づかなくなったというのに。 小松の表情を見ると、明らかに怪訝そうな表情をする。 その表情は、かなり怒っているように見えたも 「私はそんなことを言った覚えはないけれど? それはいつなの? 誰から?」 小松は厳しい表情でゆきを見つめている。 ゆきを直接怒っているようには見えなかったが、それでもかなり厳しい表情であることは、確かだった。 「ゆき、誰から?」 「誰にもお咎めがないようにして下さいますか?」 やはり自分のせいで誰かを貶めることなんて、ゆきには出来ない。 事前に一言断りを入れておかなければならないと、ゆきは思った。 「どうして? きちんと私のメッセージを伝えられない者は、どのような物であろうと、懲戒の対象になると思うけれど」 小松の言うことは最もで、ゆきは上手く反応が出来ない。 緊張が身体を固くしていた。 |