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小松と大人のデートをする。 エスコートをされることには、まだまだ慣れないが、ゆきは、本当に大事にされていると、感じずにはいられない。 小松はレストランに入っても、レディファーストよろしく、ゆきをしっかりとエスコートしてくれた。 席につくと、夜景が一番美しく見える席だった。 「小松さん、凄く夜景がきれいですよ!」 ゆきは思わず子供のように騒いでしまう。 それぐらいに夜景は素晴らしかった。 「君が喜んでくれるのなら、私はそれが本望かな」 小松は艶やかに微笑むと、ゆきに、まるで、小さな子供を見つめるような眼差しを向けてきた。 子供だと思われている。 それが悔しい。 折角の大人のデートだというのに。 もう少し落ち着いた行動をしなければならない。 ゆきは背筋を伸ばして、畏まった。 「ゆき。肩の力を抜いて。いつも通りの君で構わないよ」 小松は柔らかさと艶やかさが滲んだ魅力的な眼差しを、ゆきに向けてくる。 子供としか思われていないのだろうか。 そう思うだけで、ゆきはしょんぼりとした気持ちになる。 「ゆき、いつも通りの君で良いよ。そのほうが、私も嬉しい」 「はい」 折角の大人のデートをセッティングしてもらったのに、本当に不甲斐ない気持ちでいっぱいだ。 まだまだ背伸びをし過ぎているのだろうか。 ゆきは自分が成長していないのだと、改めて痛感した。 運ばれてきた食事は、本当に美味しくて、ゆきの好みの料理ばかりだ。 畏まって大人の女性気取りで食事なんて出来なくなるぐらいに美味しい。 「美味しいです。どれも。夜景が綺麗で、ご飯が美味しい。最高の贅沢ですよね」 「そうだね」 小松も笑顔でいてくれる。 それがゆきには嬉しい。 「有り難うございます。美味しくて、綺麗で、本当に素敵な時間です」 ゆきは、すますことを止めて、素直に自分の気持ちを伝えた。 「喜んでくれて、良かったよ。この後は、デザートだね。君の好きな」 「凄く楽しみです」 食事が素晴らしかったから、ゆきはついデザートにも期待してしまう。 運ばれてきたのは、大好きな桃が使われた、蕩けるように美味しいスウィーツだった。 一緒に出された紅茶はフレイバータイプのもので、ほんのりとバニラの香りがする。 甘い香りに、ゆきはついうっとりとしてしまう。 本当に美味しそうな香りだった。 「良い香りがします」 ゆきは幸せな気分で、うきうきしながら、デザートを食べる。 桃が蕩けるような食間でとても美味しくて、ゆきは思わずにっこりと笑った。 「甘いものを食べている時の君は、本当に幸せそうな顔をするよね。良い顔をしているよ、本当に……」 小松は甘い笑みを浮かべると、ゆきを真っ直ぐ見つめる。 艶のある大人の男性の魅力が官能的に滲んだ眼差しを向けられて、ゆきはスウィーツとは別の甘さに、うっとりとしてしまう。 甘くて素敵な瞬間だ。 ドキドキとときめきで胸がいっぱいになってしまい、ゆきは蕩けるような緊張に、全身がこのまま蜜のようにとろけてしまうのではないかと思った。 食後のデザートと紅茶が終わると、急に胸が切なさでいっぱいになる。 楽しい時間も、あっという間になくなってしまう。淡雪のように消え去ってしまう。 外に見える夜景がやけに切なくて泣きそうになる。 胸が締め付けられるほどのロマンティックだった。 このまま終わって欲しくはない。 だが、もうおしまいの時間だ。 ゆきは、せめてもう少しだけ、小松と一緒にいたいと心のなかで強く願った。 だが、そんな大胆なことを言い出す勇気はない。 結局は、大人の女性を気取ってみたところで、肝心なところは子供のままだった。 大人のデートを小松はしてくれたけれど、結局は、ゆきが子供だった。 どう背伸びをしても子供なのだ。 「ゆき、そろそろ行こうか」 「はい……」 ゆきは、まるで遊園地から帰るような気分で、席から立ち上がる。 「……あっ」 小松に腰をしっかりと抱かれて、身体をしっかりと引き寄せられながら、レストランから出た。 ドキドキし過ぎて、耳まで真っ赤にさせてしまう。こんなにも恥ずかしいことは、他にないのではないかと、ゆきはつい思ってしまう。 エレベーターに乗り込む。 エレベーターに乗っている間も、小松はしっかりとゆきの腰を抱いたままだ。 まるで誰かに見せつけるかのように、しっかりと腰を抱かれる。 ゆきはドキドキし過ぎて、上手く立てなくなっていた。 小松は駐車場ではなく、ロビーのある階でエレベーターを降りた。 このまま車に乗って帰るのだとばかり思っていたゆきは、驚いた。 「あの、今度はどちらへ……?」 「大人のデートはこれからでしょ?違う?」 「あ……」 大人のデート。 続きがあることを、ゆきは直ぐに気づいて真っ赤になった。 「ゆき、どうするの? 大人のデートをするかどうかは、君にお任せするよ」 小松に選択肢を委ねられてしまい、ゆきは鼓動が速くなる。 大人のデート。大人の関係。 それがどのようなものであるかどうかは、もう、ゆきにも解る。 ドキドキし過ぎて、ゆきは首筋まで真っ赤にさせてしまう。 どうして良いかが解らないぐらいに、緊張してしまう。 そう。 小松と大人の男女として付き合うには、避けては通れないことなのだ。 ゆきは今更ながらに気がつく。 小松と大人の関係になる。 それはふたりの関係をステップアップさせることに他ならない。 ゆきは深呼吸をして覚悟を決めると、小松を見上げた。 「……続けて下さい……」 小さな声でゆきは、恥ずかしさを滲ませながら呟いた。 緊張し過ぎて、鼓動が収まらない。 小松はクスリと甘く笑うと、ゆきを引き寄せた。 「解ったよ。決して後悔はさせないから……」 小松の艶のある大人の囁きに、ゆきは真っ赤になりながら、小さく頷いた。 ロビーはホテルのフロントになっていて、小松は直ぐにチェックインする。 既に予約をしていたようで、確信犯のように思えた。 いつも用意周到な小松らしいとも思う。 チェックインの後、ふたりきりでエレベーターに乗り込んで、高層階へと向かった。 たどり着いたのは、夜景が特別に美しい、ジュニアスィート。 クィーンサイズのベッドが、何かを主張するように鎮座している。 ゆきは意識をし過ぎてしまい、耳の後ろが痛くなるぐらいに、鼓動を高めてしまう。 小松と大人の階段に昇る。 甘くて官能的な緊張に、ゆきは呼吸が出来なくなっていた。
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